今期一般社団法人日本保健医療社会福祉学会学会長を引き受けることとなりました熊谷です。よろしくお願い申し上げます。本学会は、前身であります日本医療社会福祉学会(1991年設置)を経て2019年に一般社団法人として認可され「一般社団法人日本保健医療社会福祉学会」となっております。初代会長の山手茂会長より歴代会長がその時代の保健医療社会福祉実践研究の先頭に立ち学会を盛り上げられてきた輝かしい歴史を顧みるとき、貧素な実践研究歴しか持ち合わせない小生にとり心もとないところでありますができうる限りの力をふり絞って、役員の皆様に支えられながら、この任を全うしてまいりたいと存じます。
本学会は、ご承知のように保健医療分野の研究者とソーシャルワーカー(実践者)が協働することにより、ソーシャルワークの実践と研究の発展、普及を図ること、そして保健医療における国民の福祉の向上に寄与することを目的としております。先の第33回学会大会(2023年9月17日)では「臨床の本質に向かう〜ソーシャルワークの基軸を成すもの〜」をテーマに盛会のうちに終えることができました。まさに本学会が追い求めてきている研究者とソーシャルワーカーの協働への取り組みが目に見えた形でお示しできたのではないかと思うところです。事例部会では長年の勤務を終えられたソーシャルワーカーによるオートエスノグラフィーの報告でした。報告ではソーシャルワーカーの入職当時からさまざまな出来事を経て退職に至るまでの取り組みが丁寧に語られました。わが国の保健医療分野のソーシャルワーカーは黎明期を抜け出し発展期にあると大凡理解していますが、私は本報告を聴き、マサチューセッツ総合病院(MGH)にソーシャルワーカーが組み入れられ(1905)、1906年より退職するまでの39年間にわたりソーシャルワーク部門の開拓と確立に貢献したアイダ・キャノンIda M. Cannon(1887-1945)を思い起こしました。キャボットRichard C. Cabotやキャノンとの出会いのあった浅賀ふさ(1894-1986)はキャノンについて「広い社会を展望した視野から人間を愛した暖かい情熱と人間の幸福と進歩に役立つことを願うキャボットと共通の目標を貫き通した意思を内面にたたえながら、外面的には彼女の特徴といわれた調和、幅、統合力及び抱擁力が多くの困難をのりこえさせる働きとなった」注)と評しています。浅賀の評した開拓者としてのキャノン像を私は事例報告者の語りに重ね見ました。
事例報告者のような取り組みは既に全国で多く展開されています。その蓄積の還元は本学会の目的としている「ソーシャルワークの実践と研究の発展、普及」につながると考えます。何れにいたしましても学会員の皆様からのアイデアや提案をいただきながら進めて参りたい所存でございます。重ねてよろしくお願い申し上げます。
注)浅賀ふさ「私とMSWの出会い−R・C・キャボットとI・M・キャノンに関する覚書」『医療福祉の研究』内田守・岡本民夫編p255、ミネルヴァ書房(1980)